オートファジーは、細胞内のタンパク・小器官をリソソームに運搬し分解する機構と定義されてるが、リソソームへの運搬様式の違いによりマクロオートファジー(MA)、ミクロオートファジー(mA)、シャペロン介在性オートファジー(CMA)の大きく3つに分類される。中でも、CMAはHsc70複合体(Hsc70,
Hsp40, Bag-1など)がKFERQ モチーフを持つ細胞質蛋白を認識しLAMP-2A陽性リソソームへ運搬し基質特異的に分解を行う事が知られている。
一方で、齧歯類脳虚血モデルにおいて、虚血耐性を獲得した海馬CA1錐体細胞でHsp40とHsc70が共時的に発現誘導される事象を報告していた(Tanaka
S. et al., J Neurosci Res. 2002)。Hsp40とHsc70はCMA基質認識・運搬に関わるHsc70複合体に含まれることから、脳虚血環境下においてMAのみならずCMAも活性化している可能性が考えられ、脳虚血環境下におけるCMAの役割を検討した。
まず、我々はCMA基質タンパクであるGAPDHとHaloTagの融合タンパク(GAPDH-HT indicator)を作成し、一細胞レベルでのCMA活性評価を可能にするツールを作製した(Seki
T. et al., PLoS One 2012)(図1)。次に、脳虚血環境下におけるCMAの神経細胞死に果たす役割を検討するため, Neuro2A細胞の低酸素負荷モデルを用いて検討を行った。CMAのkey
moleculeであるLAMP-2Aは1%低酸素曝露後48時間をピークに発現誘導され、GAPDH-HT indicatorを用いた検討においても、低酸素負荷によるCMA活性化が確認された(図2)。さらに、LAMP-2AノックダウンやCMA活性化薬を用いた検討により、CMAが低酸素環境下では神経細胞保護的に作用することを明らかにした(Dohi
E. et al, Neurochem Int, 2012)。
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CMAの代表的な基質であるGAPDHとHaloTagの融合蛋白のベクターを作成し,細胞に遺伝子導入する。その後、蛍光色素付のHaloTagリガンドを処置すると,生細胞の細胞膜を通過するリガンドはHaloTagと共有結合する。しかし,この反応はリソソームの様な酸性条件下では起きないため,結果として細胞質内のGAPDH-HTのみが蛍光標識される。蛍光標識されたGAPDH-HTはCMA活性依存的にLAMP-2A陽性のリソソームに運搬されリソソーム内に取り込まれる。蛍光色素は酸性条件下でも蛍光を発し,LAMP-2A陽性リソソーム内へ蓄積しDotを形成する。このDot数をCMA活性として計測する。 |
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Neuro2A細胞にGAPDH-HT indicatorを遺伝子導入した後,通常酸素および1%低酸素で48時間培養した.通常酸素群(上段)と比較して,1%低酸素群(下段)ではGAPDH-HTのDot形成が亢進しており,そのほとんどがLAMP-2Aと共局在した。Dotを10個以上有する細胞の割合は1%低酸素群で有意に増加していた. |
主な関連論文
1. Dohi E, Tanaka S, Seki T, Miyagi T, Hide I, Takahashi T, Matsumoto M, Sakai
N, Hypoxic stress activates chaperone-mediated autophagy and modulates
neuronal cell survival, Neurochemistry International, 60: 431-442, 2012. [PubMed]
2. Seki T, Yoshino KI, Tanaka S, Dohi E, Onji T, Yamamoto K, Hide I, Paulson HL, Saito N, Sakai N, Establishment of a novel fluorescence-based method to evaluate chaperone-mediated autophagy in a single neuron, PLoS One, 7: e31232, 2012. [PubMed]
3. Tanaka S, Kitagawa K, Ohtsuki T, Yagita Y, Takasawa K, Hori M and Matsumoto M, Synergistic induction of HSP40 and HSC70 in the mouse hippocampal neurons after cerebral ischemia and ischemic tolerance in gerbil hippocampus. J Neurosci Res, 67: 37-47, 2002.
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