細胞膜上には様々な受容体が発現していますが、中でもG蛋白質共役型受容体(GPR)は受容体の中でも最大のファミリーを構成し、ヒトで約800種類のGPRの存在が明らかにされており、創薬の重要なターゲットとなっています。
GPR3は1993年に大阪大学の佐伯嘉修(現 佐伯病院院長)によりラット脳から最初にクローニングされたGタンパク共役型受容体です。その後、GPR3やそのファミリー受容体GPR6・GPR12には、恒常的なGs活性化能があり、細胞内cAMPを上昇・維持するユニークな機能を持つことが報告されました。
研究代表者の田中は、卵母細胞に発現するGPR3がMeiotic arrestに関与することをMehlmann, Jaffe, 佐伯らと共同で解明してから(Mehlmann
et al., Science 2004)、主に中枢神経系におけるGPR3の機能や役割について検討してきました。その結果、GPR3が中枢神経系では主に神経細胞に発現し、突起伸張・分化・生存など神経細胞の恒常性維持に深く関与し、その破綻は脳梗塞などの病態を増悪させることを明らかにしています。最近では、GPR3は軸索再生にも寄与し、緑内障病態に影響を与えることがわかりました。
一方、GPR3は神経細胞にみならず免疫関連細胞にも発現し、核内受容体NR4A2発現制御や、エフェクターT細胞抑制に寄与することを新たに解明しました(Shiraki et al., JPS 2022)。GRP3は多発性硬化症増悪に関わるバイオマーカーとしての可能性が指摘されていますが、多発性硬化症病態に与えるGPR3の役割ついて現在検討を進めています。
他の研究者らのGPR3に関連した報告では、アルツハイマー病との関連性( や、褐色脂肪細胞でエネルギーメタボリズムなど恒常性へ関与が報告されており (Johansen OS et al., Cell 2021)、近年非常に注目を集めている受容体です。
Pubmedにて調査
自然界の生命体では多様なタンパク質、受容体、遺伝子発現などが相互に関与することで、生体の恒常性を保っていると考えられ、一つとして無駄な分子は存在しないと、研究代表者の田中は考えています。
恒常的活性化型受容体を通じて神経・免疫の共通した機能や分子基盤を探り、脳梗塞や多発性硬化症などの神経免疫疾患の病態理解と治療への応用を目指しています。
哺乳類成体の中枢神経は、障害後にミエリン阻害により中枢神経障害後の軸索再生が阻害され、神経障害が回復しません。GPR3やそのファミリー受容体であるGPR6・GPR12はミエリン抵抗性神経突起伸長を示すことを明らかにしています(Tanaka et al., JBC. 2007)
GPR3が出生後の小脳発生において、小脳内顆粒神経細胞層に発現が増加し、神経細胞の分化・成熟に関与することを解明しています(Tanaka et al., PLoS One. 2009)。
GPR3は細胞生存・恒常性維持に重要であり、低酸素や活性酸素ストレスなどの虚血関連ストレスに対して、細胞保護的に作用することを明らかにしました。GPR3ノックアウトマウスでは野生型マウスと比較し、梗塞巣が拡大し(図1)、虚血ストレスに対する脆弱性を示します(Tanaka et al., Neurobiol Dis 2014)。
GPR3はマウス網膜において、網膜神経節細胞に比較的豊富に発現し、加齢や虚血ストレスに対する神経細胞死抑制に関与することが明らかになりました。さらに、網膜神経節細胞へのGPR3遺伝子導入は、視神経障害後の軸索再生に寄与することが明らかになりました(Masuda et al., Neurobiol Dis 2022)
。
主な発表論文
1.
2. .
Potential role of inducible GPR3 expression under stimulated T cell conditions.
J Pharmacol Sci. 2022 Mar;148(3):307-314. doi: 10.1016/j.jphs.2022.01.005.
3.
GPR3 accelerates neurite outgrowth and neuronal polarity formation via
PI3 kinase-mediating signaling pathway in cultured primary neurons.
Mol Cell Neurosci. 2022 Jan;118:103691. doi: 10.1016/j.mcn.2021.103691.
4. Ikawa, F., Tanaka S*., Harada, K. Hide, I., Maruyama, H., and Sakai, N.
Detailed
neuronal distribution of GPR3 and its co-expression with EF-hand
calcium-binding proteins in the mouse central nervous system.
Brain Res. 2021 Jan 1;1750:147166. doi: 10.1016/j.brainres.2020.147166.
Epub 2020 Oct 16
5. Miyagi T, Tanaka S*, Hide I, Shirafuji T, Sakai N The Subcellular Dynamics of the Gs-Linked
Receptor GPR3 Contribute to the Local Activation of PKA in Cerebellar Granular
Neurons. PLoS One. 2016 Jan 22;11(1):e0147466. doi: 10.1371/journal.pone.0147466. eCollection
2016. [PubMed]
6. Tanaka S.*, Miyagi, T., Dohi, E., Seki, T., Hide, I., Sotomaru, Y., Saeki, .Y,
Antonio Chiocca, E., Matsumoto, M., Sakai, N. Developmental expression
of GPR3 in rodent cerebellar granule neurons is associated with cell survival
and protects neurons from various apoptotic stimuli. Neurobiol Dis, 68C: 215-227, 2014 [PubMed]
7. Tanaka S, Shaikh IM, Chiocca EA* and Saeki Y, The Gs-Linked receptor GPR3 inhibits
the proliferation of cerebellar granule cells during postnatal development,
PLoS One, 15: e5922, 2009.
8. Tanaka S, Ishii K, Kasai K, Yoon SO and Saeki Y*: Neural expression of G protein-coupled receptors GPR3, GPR6, and GPR12 upregulates cyclic AMP levels and promotes neurite outgrowth. J Biol Chem, 282: 10506-10515, 2007. [PubMed]
9. Freudzon L, Norris RP, Hand AR, Tanaka S, Saeki Y, Jones TL, Rasenick MM, Berlot CH, Mehlmann LM and Jaffe LA*
Regulation of meiotic prophase arrest in mouse oocytes by GPR3, a constitutive
activator of the Gs G protein. J Cell Biol, 171: 255-265, 2005.[PubMed]
10. Mehlmann LM, Saeki Y, Tanaka S, Brennan TJ, Evsikov AV, Pendola FL, Knowles BB, Eppig JJ and Jaffe LA*
The Gs-linked receptor GPR3 maintains meiotic arrest in mammalian oocytes.
Science, 306: 1947-1950, 2004.
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